
撮影:伊東和則
キャラメルボックス随一のサスペンス作品「嵐になるまで待って」が、より緊張感とエンタテインメント性を増し、8月6日、リニューアルオープンとなった池袋サンシャイン劇場で初日を迎えた。
声優志望のユーリは、初めて挑んだアニメのオーディションに見事合格。歌稽古の現場で、ニューヨークを拠点に活躍する音楽家の波多野と、人気俳優・高杉が揉めている現場に遭遇する。興奮した高杉が、耳と言葉が不自由な雪絵に詰め寄った瞬間、ユーリには高杉に向けられた波多野の「死んでしまえ」という声が聞こえる。それは波多野の"もう一つの声"だった。次の日、高杉は失踪。しかしその"もう一つの声"が聞こえていたのはユーリだけで、中学時代の家庭教師・幸吉に相談するもまともにとりあってくれない。波多野に恐怖心を抱くユーリ。そんな彼女の変化に気づいた波多野はユーリを呼び出し、彼女の"声"を奪ってしまう……。
再演を重ねたことで、より演出がスピーディーに、そしてサスペンス色を増した印象を受けた。もともと、キャラメルボックス作品の中でも最もダークな部分を持つこの作品。姉の雪絵を守るため、自分の持つ特殊な力で人を殺めていく波多野。その波多野の秘密を知ってしまったが故に追い詰められていくユーリ。"音"を使った効果的な演出が、観客の恐怖心を刺激していく。
西川浩幸演じる広瀬教授以外、ほとんどのキャストが前回公演から一新されたこの公演。主人公・ユーリに抜擢された渡邊安理のどこかボーイッシュな声とキレのいい動きがこの役にはまっている。彼女が憧れる幸吉役の土屋裕一(*pnish*)の持つ優しそうな雰囲気もあり、観客が感情移入しやすい等身大の男女の姿がそこに。だからこそ、より物語世界に観る者が入り込みやすく、緊張感を味わうことができるのだろう。また、耳と言葉が不自由な雪絵という難しい役を演じた温井麻耶の好演が印象に残った。
そして、なんと言っても今回出色なのは波多野を演じた細見大輔。2年ぶりの劇団公演出演が、以前から演じたかったというこの波多野役となった。狂気と危うさ、そして姉に向ける純粋な感情。それらのギャップが、波多野というキャラクターをよりくっきりと舞台に映しだし、単なる"悪役"ではない魅力を醸し出している。クライマックス、姉の雪絵とふたりで対峙するシーン。白い洋服を着たふたりが暗闇の中浮かび上がる様が、ふたりだけで生きてきた彼らの深い孤独を垣間見せ、哀しさとともに、美しさすら感じさせた。
ユーリが体験した約1週間の出来事は、不穏な空気を感じさせる嵐の前からスタートし、台風の日にクライマックスを迎える。天気が不安定になりがちなこれからの季節にぴったりの作品といえるだろう。
公演は8月31日(日)まで東京・サンシャイン劇場、9月4日(木)~7日(日)福岡・西鉄ホール、9月11日(木)~16日(火)大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!で行われる。
取材・文:川口有紀 撮影:伊東和則
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