
(左から)厚木拓郎、勝野雅奈恵、窪塚俊介、大林宣彦監督、小杉彩人、南原清隆、大谷燿司、原田夏希、伊勢未知花、山田辰夫、今井雅之
巨匠・大林宣彦監督が直木賞作家・重松清の連作短編小説を映像化した映画『その日のまえに』が18日、開催中の第21回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で上映され、大林監督と出演者の総勢11名による舞台あいさつが行われた。自らを“70歳の新人監督”と称した大林監督は、名作を生み出す極意と、本作が遺作となった俳優・峰岸徹さんへの弔辞を述べた。
同作は、ウッチャンナンチャンの南原清隆と、永作博美が夫婦役を演じたダブル主演作。余命(=その日)を宣告された妻・とし子が、その夫とふたりの息子とともに懸命に死と向き合う姿を通して、人間の生と死を描くもの。重松清原作の映画化は、今年だけで『きみの友だち』『その日のまえに』『青い鳥』と3作品あるが、中でも“生と死”に正面から向き合った本作には、映像化のオファーが殺到。原作にほれこんだという大林監督がラブコールを送り、映画化が実現した。
本編の上映後に行われた舞台あいさつ。満場の客席を目にした大林監督は「うれしいねえ」と満面の笑みを見せると、「映画は観客に見てもらうことで初めて映画になる」と述べ、改めて客席を見回した。その後、自ら進行役となり、登壇者ひとりずつの役柄を紹介。時間制約のある中で配分を考えつつ、撮影現場さながらの見事な采配を振るった。
役者にとって大林組は「監督だけがどこを撮っているのかを把握している現場」と、大林組は3度目の窪塚俊介と1997年に大林組でデビューを飾った勝野雅奈恵が明かすと、大林監督も「私も分かっていないから(笑)」と同調。その衝撃発言に周囲は驚いたが、「分かったことだけを撮ると、しょせん“大林宣彦の映画”にしかならない」と説明。「私は70歳の新人。だから面白そうだな、楽しそうだな、どうなるのかな?という分からないことを映画にした」と探究心こそが創作の根源であることを明かした。また「映画の神様のおかげ」と感謝を述べるなど、魂の宿った名作を次々と生む、巨匠の極意がうかがえた。
大林監督は「生きている人が死に逝く人を悲しがるだけでなく、むしろ故人が生きてきたことを誇れるように送ってあげましょう」と前置きし、本作を遺作に急逝した峰岸さんの追悼として、峰岸さんの似顔絵が描かれたボードに寄せ書きするよう登壇者に促す一幕も。そして「『生きることは素晴らしい。十分に生きたご褒美に安らかな眠りをもらおうね』と伝えたい!」と穏やかな口調は慈愛に満ちていた。そして最後に「どうか皆さんもこの“生”を誇れるように一生懸命生きてください」と締めくくった。
『その日のまえに』
11月1日(土)より、角川シネマ新宿、シネカノン有楽町2丁目、渋谷アミューズCQNほか全国ロードショー
取材・文・撮影:南樹里
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