
光石富士朗監督
昨年、東京国際映画祭の「日本映画・ある視点部門」で特別賞に輝いた映画『大阪ハムレット』は、「少年アシベ」で知られる森下裕美の傑作コミックをもとにしたヒューマン・ドラマ。大阪の町で暮らす久保家の悲喜こもごもがコミカルに綴られる中で、主題となっているのは、人の“受容”の心。手がけた光石富士朗監督も、この原作の根底にあるテーマに、まず惹かれたとシネマぴあのインタビューで語ってくれた。
「僕も40数年生きてきましたが、世の中の一般常識や世間体が人間関係をギクシャクさせる要因になって、なにか生き方を窮屈にしているような気がするんです。日本の社会にも言えることですけど、一定の輪から外れることをあまり善しとしない。でも、そういうしがらみから開放されると実はすごく楽。ありのままの自分や他者を受けいれることで見えてくることがいっぱいある。なかなか僕も実際はできないんですけどね(笑)。そこに気づかせてくれる原作で。これは僕も常々考えていたことなのでぜひ描いてみたいと思いました」。
こう監督が語る社会のへんな概念や壁を跳び越えていくのが、久保家の面々。この家族の環境は普通とは言いがたい。オトンが急死した直後、父の弟を名乗る叔父がなぜか同居するようになり、誰の子なのかいまひとつ不透明なままオカンの妊娠が発覚。子供たちもフケ顔で大学生に間違われる中学生の長男はファザコンの女性教育実習生と妙な関係になり、バリバリヤンキーの次男はある出来事から自分が本当の子供か疑問を抱き始め、小学生の三男は女の子になりたいと言い出す。でも、そんなてんでバラバラな個性が、悩みながらも他人の価値観ではなく自らの意志でお互いを認め、受け入れることでいつしか結束。各人が明日の未来を切り開いていく。
「松坂慶子さんが演じた肝っ玉母さんが象徴なのですが、久保家の面々はこの母の大きな母性と同様に互いを思いやり、すべてを大きな心で包み込んでしまう。他人から見たら久保家はちょっと変わった家族に映るに違いない。でも、こういう家族の形、僕はありだと思います」と断言した監督。家族の崩壊が叫ばれ、何かと世相の暗い現在の日本。その中で、めっちゃあったかい久保家の肖像は、きっと観た者の心に元気を届けてくれるに違いない。
文・写真:水上賢治
『大阪ハムレット』
1月17日(土)シネスイッチ銀座、シネ・リーブル梅田ほか全国にて公開
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