
『パンク侍、斬られて候』初日開幕
小説の舞台化は珍しくも何ともないが、それが町田康作品となるとちょっと事情は変わってくる。荒唐無稽な“町田ワールド”をいかに具現化するか…… そんな大変な作業に俳優・山内圭哉が挑んだ『パンク侍、斬られて候』が1月20日、東京・本多劇場で幕を開けた。
時は江戸時代。街道沿いの茶店に腰かけていた浪人・掛十之進(山内)が、盲目の娘を連れた巡礼の老人を切り捨てる。そこに居合わせた藩士・長岡主馬(中山祐一朗)に切りかかった理由を問われた掛十之進は、かの老人が新興宗教「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言う。一方、家老・内藤帯刀(林克治:カリカ)は権力闘争に腹ふり党騒ぎを利用することを思いつく。しかし事態は思わぬ方向へ…… というストーリー。もともとは、2006年に関西の演劇祭でテント公演として上演された作品で、今回は新たなキャストを迎え、満を持しての再演となった。
原作を知らない観客は、最初は面食らうかもしれない。それほどに“濃い”舞台に仕上がっている。目には目を、歯には歯を、そしてナンセンスにはナンセンスを。怒濤のイマジネーションの中にナンセンスが散りばめられている町田作品。山内は舞台化にあたって、彼流の“演劇ならではのナンセンス”で原作を料理している。コントのような掛け合い。映像を使った殺陣のばかばかしさ。それはこのストーリーの持つアクの強さに負けておらず、かつ笑っているうちに劇世界への呼び水になる効果も。また中山祐一朗、加藤啓、カリカ林、転球劇場の3人衆(福田転球、高木稟、橋田雄一郎)など “笑い”に長けたキャストが多いのも大きいだろう。
そして何より面白いのは、不条理さに満ちたSF時代劇がこうやって舞台化されたことで、その骨格のリアルさに気づかされるということだ。新興宗教を巡る争乱。足の引っ張り合いのような権力闘争。どこかすぐ身の回りにある話に似ていると気づかせ、笑いながらも後半になるにつれヒヤリとさせられる。また、登場人物たちはアクが濃くも皆人間らしく生臭い。そんな中を、ある意味最も生臭い掛十之進が時に戸惑いつつ、時に目の前の人間を切り捨てながら進んでいく様は、演じる山内のキャラクターとも相まって何とも壮観。荒唐無稽さと演劇的カタルシスの相性の良さに、改めて気づかされる公演だ。
東京公演は2月1日(日)まで本多劇場で。その後大阪公演が2月6日(金)から2月8日(日)にサンケイホールブリーゼで、北九州公演が2月14日(土)・15日(日)に北九州芸術劇場で行われる。
取材・文:川口有紀
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