
左より、勅使川原三郎、佐東利穂子
日本を代表する振付家・ダンサーである勅使川原三郎の新作「ダブル・サイレンス―沈黙の分身」の公開稽古が東京・渋谷のシアターコクーン稽古場で行われた。振付のみならず舞台美術、照明、衣裳に至るまでを自ら手掛け、既存のダンスの枠組みに留まらない挑戦を続ける勅使川原が、本作でテーマとするのは“沈黙”。人は無音室内にいても、心臓の鼓動や呼吸によって完全な沈黙を体験することはできない。そんな状態において体感しうる“沈黙”を、勅使川原とダンス・カンパニー「KARAS」の中心メンバー・佐東利穂子、ダンス未経験者や最年少14歳を含む若手ダンサーの総勢11名で創造する。
勅使川原本人の口から作品コンセプトが語られた後、抜粋部分の公開稽古がスタート。薄闇のリハーサル室内に微かな振動を伴う超低音のノイズが響き渡る。左右の壁にスタンバイしていたダンサーたちがひとりずつ現れ、残像が目に焼きつくほど早く激しく手足を動かしては去って行く。何かに憑かれたような、あるいは全身を解き放しているかのような、若く衝動的な動き。音の高低や強弱、トーンなどが微妙に変わるたび、その動きのニュアンスも様々に表情を変えていく。沈黙がテーマではあるが、全てが無音の中で行われるわけではない。むしろ、沈黙は(無音状態として)与えられるものではなく、観る者それぞれの体内・脳内から生み出される――そんな見解を提示しているよう。事実、ダンサーたちがゆったりとたゆたうシーンでは(あくまで個人的な解釈だが)漆黒の深海のイメージが浮かび、一瞬、無限の“沈黙”を体感した。
30分強のパフォーマンスを締めくくったのは、勅使川原と佐東2人によるダンス。彼らは指先を伸ばせば触れられる距離にいながら、見えないバリアに阻まれるかのように互いに触れることができない。そのわずかだが絶対的な距離もまた視覚的“沈黙”と呼べるのかもしれない。
公開稽古終了後、勅使川原と佐東が取材陣の前に登場。「勅使川原さんが示唆することによって体がどう感じるか、それによってどう変化するかを試している最中。毎日毎秒知らないことの発見です」(佐東)、「誰かの後追いのようなことはしたくない。この作品も挑戦し続けながら、具体的な成果として海外でも発表できるまでに高めたい」(勅使川原)と、約3週間後の開幕に向けそれぞれ語った。
公演は3月21日(土)から29日(日)まで東京・シアターコクーン、6月13日(土)兵庫県立芸術文化センター 中ホールにて上演される。東京公演のチケットは、発売中。兵庫公演は、4月5日(日)に一般発売を開始する。
取材・文:武田吏都
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