
舞台「櫻の園」より
吉田秋生の傑作コミック『櫻の園』。映画や舞台で繰り返しリメイクされ人気を博しているこの作品が、新たなキャストを迎え4月22日、東京・青山円形劇場にて幕を開けた。
構成・演出の堤泰之(プラチナ・ペーパーズ)は、過去3度にわたる舞台化も手掛けているだけに、女子高演劇部での部員たちの実態を見事に表現していた。友情や恋や勉強に悩む彼女たちの会話を聞いているうちに、観客は演劇部の部員になったように自然と物語に溶け込んでいた。
桜の樹に囲まれた名門女子高・桜華学園の演劇部では毎春、創立記念日にチェーホフの『櫻の園』を上演することが慣習となっていた。上演日の朝、部長の志水由布子が校則違反のパーマをかけて登校する。いつも真面目な志水の変化に驚く部員たち。さらに前日、部員の杉山紀子が補導されたというニュースが部内を駆けめぐる。そして、公演中止の危機に追い込まれるが……。『櫻の園』の上演を前にして規則や伝統、格式の壁にぶち当たる部員たち。彼女たちの悩みは劇中の世界にシンクロし、やがて確実に人生の一歩を踏み出し始める。
堤の演出はあくまでも自然体だ。衣裳替えやメイクなども劇の一部として自然に展開し、バイオリンとピアノの生演奏がさりげなく観客を次の場面へと導いていく。役者陣はそれぞれが個々の登場人物を個性豊かに好演し、台詞のひとつひとつに実感が籠もっていた。中でも、同性への恋に揺れる“志水先輩”を静かな中にも表情豊かに演じた福井未菜、本番を前に不安で押しつぶされそうな“倉田知世子”の苦悩を見事に体現した山崎真実、どこか陰のある“杉山”をクールに演じた芳賀優里亜、そして、“あどけない少女”と“恋する女”を演じ分けた“城丸”役の妹尾友里江の熱演が光った。
毎年同じように咲く桜の花。代々演じられてきた桜華学園の舞台『櫻の園』。そして、4度目の舞台化となるこの作品。どれをとっても同じものはひとつもない。“だからこそ頑張ろう!”と、舞台にかける彼女たちの姿は、時代も世代も問わず人々を魅了する。今を生きる彼女たちの『櫻の園』は今回限り。この舞台は、学生時代特有のあの瑞々しさを体感できる絶好の機会だ。
公演は4月29日(水・祝)まで青山円形劇場にて。チケットは現在発売中。
取材・文:松原正美
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