
舞台「黒革の手帖」が開幕
松本清張の人気小説で、これまで何度も映像化されてきた『黒革の手帖』。2004年に放送された米倉涼子主演のドラマでも人気を集めた同作が、2006年の舞台版の好評により、同じ米倉主演で再演が実現。29日、東京・明治座で初日の幕を開けた。
物語は元銀行員の原口元子(米倉)が、銀行の重役たちと取引をするところから始まる。架空口座の秘密を書いた黒革の手帖を渡す代わりに、横領した1億8千万円をせしめた元子は、銀座で高級クラブ「カルネ」を始める。艶やかな美人ママに変身した元子が次に狙うのは、美容外科を経営する楢林(田山涼成)。愛人で看護師の市子(横山めぐみ)を取り込みまんまと大金を得るが、そんな元子のやり口を老舗クラブのママ・叡子(萬田久子)は心配する。議員秘書の安島(永井大)や、元子に銀座を追われたホステス波子(松本莉緒)が見つめるなか、元子は次の標的として、医学部進学塾の理事長・橋田(左とん平)に接近するが……。
元子役の米倉は、本人いわく「多すぎて何着あるかわからない」(舞台稽古の会見より)という豪華な衣裳を次々と身に付けて登場。抜群のスタイルと圧倒的な華やかさで、本作のために作られた着物やスパンコールのワンピース、ロングドレスなどを着こなし、客席のため息を誘う。そんな米倉が演じる元子だからこそ、ここぞというときに“黒革の手帖”を読み上げ、男たちを追い詰めるシーンではゾクゾクするような爽快感が得られる。楢林に頬を殴られた元子が「私は殴られれば殴られるほど強くなるの」と言い放つ場面などは、ピカレスク(悪漢)・ロマンの真骨頂だろう。すでに“座長”の風格すら漂う米倉に、相手役の永井も「米倉さんに引っ張られてます」と語っていた。
その他、女に溺れて転落する楢林をコミカルに演じた田山、下品な男だがどこか食えない橋田を表現した左ら、ベテラン勢がしっかりと米倉を支える。銀座という戦いの場から降りて女の幸せを選ぶ叡子役の萬田に穏やかな味わいが感じられ、初日はまだ硬さが見られたものの、安島役の永井の立ち姿や、波子役の松本の華やかさも印象に残る。公演を重ねて、さらに演技に磨きがかかるだろう。
客席は明治座らしい年配の夫婦やグループに加え、若い女性連れやカップル、さらには元子と同じ職業とおぼしき華やかな女性たちなど、多彩な層でにぎわった。劇中には「この不況の時代」といったセリフもあり、カネと欲に振り回される登場人物たちの姿は、出版から四半世紀以上経った今もリアル。強く美しく、ひとりで凛と立つ元子に私たちが惹かれるのも当然かもしれない。
公演は5月25日(月)まで明治座にて行われる。チケットは現在発売中。
取材・文:佐藤さくら
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