
ブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』 (撮影:清田征剛)
藤原紀香、諸星和己、阿部力ら出演のブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』が1月7日夜、東京・日生劇場で華々しく幕を開けた。1966年にブロードウェイで初演された本作は、ライザ・ミネリ主演の映画版(1972年)でも広く知られる名作。近年ではサム・メンデス演出のリバイバル版(1993年初演)、松尾スズキ演出のバージョン(2007年)などが記憶に新しい。今回、注目の“最新版”『キャバレー』を手掛けるのは、大ヒット・ミュージカル『エリザベート』の演出で知られる宝塚歌劇団の小池修一郎だ。
舞台は1929年、ナチス台頭前夜のベルリン。売れないアメリカ人作家クリフ(阿部)はこの町にたどり着き、キャバレーの歌姫・サリー(藤原)と恋に落ちる。サリーはクリフの宿に転がり込み、やがて妊娠。だが価値観の異なるふたりはすれ違い始め、同時にベルリンの町も不穏な時代の空気に包まれてゆく。そしてその一部始終を、キャバレーの司会者・EMCEE(諸星)が冷めた眼差しで見つめている……。
オープニング、EMCEEがセリから上ってきた瞬間から客席のボルテージは一気に高まった。彼が舞台中央に据えられた地球を弄ぶようにし、それがあるものに成り代わると、舞台はたちまち1929年のベルリンへと飛ぶ。極上のトリップ感覚が観客の心を早くもワシ掴みにする。EMCEEによって操られているかのような世界で、藤原演じるサリーは奔放に、懸命に生きている。ボディスーツにガーターベルトのセクシーな姿ももちろんいいが、“ただひたむきに幸せを求める女性”像が藤原自身とも重なるようで胸を打つ。「生きるってことはキャバレー」と、力強くも哀切を込めて歌い上げるラストのソロ・ナンバー『キャバレー』が圧巻だ。加えて、諸星演じるEMCEEが見事。メンデス版ではアラン・カミング、松尾版では阿部サダヲなど代々クセのある俳優が演じてきた役だが、エンターティナーとしての底力を見せつけ、様々な風合いの楽曲を歌い分ける歌唱力も申し分ない。マイケル・ジャクソン(?)、チャップリン、ヒトラー、女装……と七変化を見せ、懐かしのローラースケートの妙技まで披露するというサービスぶりだ。だが、この“陽”の裏にある得体の知れなさこそがEMCEEというキャラクターの深みであり、この重層的なEMCEEの存在が作品全体を深遠なものにした。
猥雑な乱痴気騒ぎ、人種差別がもたらす悲恋など様々な要素を内包した物語は、クリフのある衝撃的な行動で終結する。今だからこそ生まれたであろう象徴的なラストが、言葉にし難い余韻を残す。
東京公演は1月29日(金)まで。その後、大阪、愛知、福岡を巡演。チケットはいずれも発売中。また、@電子チケットぴあでは、東京公演・大阪公演を対象にした企画チケットも発売中。
取材・文:武田吏都
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