
近代能楽集より『葵上』。2002年公演より
美輪明宏主演の舞台、「近代能楽集より『葵上』『卒塔婆小町』」が、全国9か所を巡るツアーを4月からスタートさせた。かの三島由紀夫が、日本古来の文化である能・謡曲を現代風に翻案。一幕物戯曲集として、新たな解釈のもと完成させたのが、この「近代能楽集」である。今回は全8作あるうちの2作『葵上』と『卒塔婆小町』を上演。美輪が手がけるものとしては、今回が8年ぶり4度目の再演となる。
病に伏せる妻を見舞うため、深夜の病院を訪れた光。するとそこに、かつての光の恋人・六条康子が現れる。光への愛に固執するあまり、生霊となってしまった六条。いつしか病室は湖上のヨットへと変わり、ふたりを幸せだった日々に戻していくのだが……(葵上)。恋人たちが愛の言葉を交わし合う夜の公園。そこに不釣り合いな老婆がひとり現れる。そんな老婆に興味を抱き、彼女の素性を尋ね始める詩人の青年。彼女はかつて“小町”と呼ばれ、自分を「美しい」と言った男たちは皆死んでしまったのだと言う。彼女が悲しい過去を語り出すうち、いつの間にかそこは80年前の華やかな鹿鳴館へと変わり……(卒塔婆小町)。
この2作に通じて言えるのは、美と醜、若さと老いという両極性。そして何より、恋と愛についての物語だという点であろう。自分よりはるかに年下の光を愛し、生霊にまでなってしまった六条。自らの美しさゆえ、愛する者を死に追いやってしまった小町。その悲しく、切ない男と女の物語が、美輪の演出により、匂い立つような美しさを放つ舞台となった。三島本人とも親交が深く、三島自身が彼女の出演を切望した『近代能楽集』。そんな三島との密なやり取りの結果、美輪はこの作品の本質を見出すことに成功したのである。
主役である六条、老婆(=小町)役はもちろん、美輪は演出、美術、衣裳、音楽、振付と、舞台を構成するすべての要素を一手に担っている。その妖艶なる舞台空間は、まさに美輪にしか作り出せない世界観。知性を秘めたその美しき非現実世界に、観客は酔いしれる。また小難しいだけの文学作品にとどまることはなく、あくまでエンターテイメント。それはまさに、三島の精神が美輪へと脈々と受け継がれた証でもあるのだろう。
そんな美輪に堂々と対するのは、光、詩人役の木村彰吾。近年の美輪作品には欠かせない逸材であり、さらに本作でその魅力に磨きをかけている。若手の中でも、今後の飛躍が最も期待されるひとりだと言えるだろう。
舞台は、5月9日(日)まで東京・ル テアトル銀座 by PARCOで公演中。その後は。5月13日(木)に福岡市民会館 大ホール、5月19日(水)に神奈川・グリーンホール相模大野 大ホール 、5月24日(月)から30日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティほかで上演する。尚、木村彰吾の出演は東京公演のみ。他会場は岩田知幸が光・詩人役として出演。
取材・文:野上瑠美子
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