
『広島に原爆を落とす日』
突然の訃報から約1ヶ月。公演タイトルには“つかこうへい追悼公演”の銘が付いた。『広島に原爆を落とす日』が8月6日、東京・シアターコクーンにて開幕した。
舞台は2010年、現代の日本・広島から始まる。外務省の奥深くに眠る機密文書の謎を追う中で、殺人事件の濡れ衣を着せられ刑務所に服役していた新聞記者・山崎(筧利夫)。出所した彼の目の前に、髪百合子(山口紗弥加)と名乗る女が現れる。彼女は機密文書の調査を山崎に依頼した。全ての記録から消された「犬子」の文字、謎の髪一族の存在、浮かび上がる真珠湾開戦の真実。そこには海軍少佐・犬子恨一郎(筧利夫/2役)と、ナチス特務大使・髪百合子(仲間リサ)の、けして結ばれることのない愛が大きく関わっていた。ふたりの宿命はやがて、広島への“原爆投下”という悲劇に繋がってゆく……。
物語は現代と太平洋戦争時を行き来しながら、怒濤のスピードで展開してゆく。“つか節”の台詞の洪水、時折唐突に始まるレビュー。大がかりな舞台転換も、派手派手しい衣裳もない。そこにあるのは、体当たりでこの作品に挑む俳優の肉体だ。ぼんやり観る、なんてことは許されない。客席も物語に食らいつき、そして台詞に胸を掴まれる。これぞ“つか作品”……そんな思いにかられる。
カンパニーを牽引するのは、7年ぶりのつか作品主演となる筧利夫の、熱演という言葉すらかすむようなパワーだ。つか作品独特の台詞回しが、彼の肉体を通すとストレートに観客に突き刺さってくる。ベテランの山本亨、今や実力派女優となった山口紗弥加らの存在感が舞台を支え、今回が初舞台というフレッシュな仲間リサがそこに華を添える。
ちなみに今回の作品、通し稽古後の記者会見で「“つかこうへい祭”だと思ってやっています」(筧)、「“つかこうへい夏のお中元詰め合わせ”です」(演出・岡村俊一)という言葉が聞かれたように、舞台の端々にかつてのつか作品のオマージュが散りばめられている。つか作品との関わりが深い岡村演出ならでは、だ。つかファンなら必ず「あ、あのシーン!」と気付くこと請け合い。これはぜひ、実際に劇場で確かめて欲しい。
初日は8月6日。まさしく65年前に、広島に原爆が投下された日だ。誰もが"早すぎる死"だと思ったものの、故人の遺志で通夜、葬儀、お別れの会などが一切行われなかったつかこうへい氏。作品に込められた彼の平和への願い、そして数多くのつかファンの哀悼の意……この舞台にはさまざまな“想い”が渦巻く。かつてない、特別な一作となっていることは間違いない。
公演は8月22日(日)まで東京・シアターコクーン、8月27日(金)から29日(日)までは大阪・森ノ宮ピロティホールにて行われる。チケットはいずれも発売中。また、東京公演は公演日前日に当日引換券も発売する。
取材・文:川口有紀
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