
(画像左から)長田育恵、上白石萌歌 撮影:源賀津己
スペイン内戦時の無差別攻撃を描いたピカソの絵画「ゲルニカ」。この絵に着想を得て、芝居の構想をあたためていた演出家・栗山民也の願いが、脚本・長田育恵、ヒロイン・上白石萌歌で実現することになった。単に歴史の悲劇を描くだけではないというそのドラマは、今、どのように響くのだろうか。長田と上白石が語った。
脚本執筆にあたって長田はまず、1年以上に渡る取材を敢行。ゲルニカ平和博物館も訪れた。そこには、当時の傷跡とともに、現在の世界の平和活動も紹介されていたそうだ。「人間が人間に対して行うあらゆる残虐は、その時代その場所特有のものではない。いつでもどこでも人間は同じことを繰り返す。だから、抗い続けなければいけないんだという意志をそこから感じたんです。この舞台も、憎しみに飲み込まれず抗いながら自由に向かって歩き続ける、そんな生きる意志を持った人々の物語にしたいと思いました」(長田)。
一方、通っていた中学校に「ゲルニカ」のレプリカがあったという上白石。「当時はそれがスペイン内戦を描いたものとは知りませんでしたが、描かれているすべてのものが助けを求めているような、悲痛な叫びが聞こえる絵だなと感じていたんです。きっとピカソは描かなきゃいけないと思って描いたんだと思うんですけど、私も演じなきゃいけない、伝えなきゃいけないという使命感や責任感みたいなものを感じています」(上白石)。
上白石が演じるのは、貴族の家に生まれた少女・サラ。自身を取り巻く世界に疑問を持ち、町の人々とかかわることで成長していくことになるが、長田は上白石のイメージからその像を作り上げていった。「上白石さんは、自分の大事なもの、自分の尊厳みたいなものを選び守れている人、と勝手に思っているんです(笑)」(長田)。そんな揺るぎなさを持つサラが、ゲルニカに生きて何を思うのか。「師である井上ひさしさんが、『人生で一度しか言わない言葉を書きなさい』とおっしゃっていました。今回もサラが一生に1回しか言わないようなことを言います。目の前でその瞬間に立ち会えることが演劇の魅力だと思うんです」(長田)。上白石も言う。「生身の人間が伝える舞台という空間では、やはり、きれいごとではなく、痛みとか叫びとか、真実を伝えていきたいという思いがあります。そうすることで希望や前を向く力を感じていただけるのではないかなと思うんです」(上白石)。今の苦しみから未来の光を感じる。今こそ求めたい作品である。
取材・文:大内弓子
上白石萌歌 ヘアメイク:冨永朋子(Allure)
上白石萌歌 スタイリング: 道端亜未
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