
撮影:宮川舞子
現代演劇を代表する作家トム・ストッパードの最新作『レオポルトシュタット』が新国立劇場にて日本で初めて上演される。9月下旬に稽古の様子が公開された。
ストッパードが「最後の作品になるかもしれない」と語り2020年1月のロンドン初演前から大きな話題を呼んだ本作は、ストッパード自身の家族の歴史をモデルに、オーストリア・ウィーンに住むあるユダヤ人の一族が激動の20世紀前半を生きる姿を描き出す。これまでも数々のストッパード作品に携わってきた小川絵梨子が演出を務める。
1899年の12月から1955年までおよそ半世紀の時間が全五幕で4世代の家族を通じて描かれる本作。シオニズム運動(ユダヤ教、ユダヤ文化の復興、ユダヤ人国家建設を目指す運動)の勃興、第一次世界大戦後の混乱やナチスの台頭、そしてホロコーストの悲劇といった激動の歴史が登場人物たちのセリフを通して語られる。
この日、稽古が行われたのは第三幕と最終の第五幕。第三幕の舞台は、第一次世界大戦の敗戦(1919年)から数年を経た1924年。かつての帝国の見る影もなく、敗戦国の苦しみで国民の不満が高まる中で“反ユダヤ主義”の影が忍び寄る…。
本作の主人公であり、一族の中心人物であるヘルマンを演じるのは浜中文一。ヘルマンは第一幕(1899年)から第四幕(1938年)まで登場し、浜中はそれぞれの幕で異なる年齢のヘルマンを演じており、この第三幕では60代という設定。一族、そして会社のトップとして舵取りを行なうが、時代の不穏な空気を感じ、一族と祖国の行く末を案じている。演出の小川からは俳優陣に「明日、明後日がどうなるかわからない空気、時代の岐路に立っているという緊張感をお腹の中に持ってください」と指示が飛ぶ。
そして、最終の第五幕の舞台は戦後の1955年。第一幕から第四幕までの登場人物の多さ(=一家の繁栄)とは打って変わって、大戦とホロコーストという地獄を生き延びたわずか3名の会話で物語が進んでいくところに、凄惨な歴史がうかがえる。
命からがらガス室行きを免れたナータン(田中亨)、アメリカに暮らすローザ(瀬戸カトリーヌ)、イギリス人としてユダヤのルーツを知らずに生きてきた若きレオ(八頭司悠友)と、同じ一族とはいえ、全く違った人生を歩み、ユダヤ人としてのアイデンティティも抱える心の傷の大きさも異なる3人。彼らが断絶を超えて、か細いながらも“家族”の繋がりを見出していくさまが描かれるのがこの最終章である。
差別と迫害の歴史の中で怒り、哀しみ、絶望を抱え、それでもなお連綿と命を繋いでいく家族の姿はいまの時代を生きる我々に何を訴えかけるのか? 完成を楽しみに待ちたい。
「レオポルトシュタット」は10月14日(金)新国立劇場中劇場にて開幕。
取材・文:黒豆直樹
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