
撮影:川野結李歌
11月24日(木)に初日が迫る、ブス会*の最新作『The VOICE』。開幕を控えた稽古場で、脚本・演出を手がける主宰のペヤンヌマキと音楽監督・演奏を務める向島ゆり子に現在進行形の創作について尋ねた。
これまで“自分ごと”を起点に、現代の日本に生きる女性のリアルを描き続けてきたペヤンヌ。最近は自身の暮らす東京都杉並区で起きている道路問題をきっかけに、杉並区長選挙に立候補した岸本聡子に密着し、ドキュメンタリー映像『〇月〇日、区長になる女。』を撮影・編集した。一連の活動で出会った人々の“声”をベースに演劇を立ち上げる本作では、伝承スタイルの音楽劇が展開される。
ペヤンヌは「私たちはこういう風に暮らしていて、いまこんな問題に直面している……という事実を伝えるとき、私がずっと取り組んできた演劇の形にすればお客さんにも“自分ごと”として受け止めてもらいやすい気がした」と話す。そのペヤンヌと『男女逆転版・痴人の愛』(2017年)や『エーデルワイス』(2019年)などでタッグを組んできた向島は「作品の題材がすべて“自分ごと”から始まっているのが、ペヤンヌさん独自の強さ。自分を俯瞰できる賢さがないと到底できない芸当だよね」と心を寄せる。
「いま現実に起こっていることを、無理やりまとめて物語にするのは乱暴。だから多様な“声”があることを、ただ提示したかった」とペヤンヌ。そこで様々な思いや悩みを抱える人にインタビューして“声”を採集した。
多様な“声”を演劇にするにあたってキャストも取材に同行。声を提供した協力者の想いがキャストに伝承されていく様子を、向島は「聞いたばかりの話をもとに即興で演技すると、その土地に生きる人たちの切実さが伝わるの。立場を問わず、みんな懸命なんだよ」と驚きを口にする。
キャストの体を通じて発される“声”と呼応するように、向島は音楽を奏でているという。その現場を目の当たりにしたペヤンヌは「音楽があるから、俳優も語りやすくなる側面があるみたいで」とコメント。向島も「役者さんの口調が高まっていくときに音楽も一緒に盛り上がっていく。一方でトゲのある“声”はオブラートで包んであげたりしてね」とセッションの舞台裏を覗かせた。
上演会場である東京・西荻窪の遊空間がざびぃは、道路拡張が決定したら立ち退きを余儀なくされてしまう立地に位置する。これを踏まえ、ペヤンヌは「道路問題は劇場のあるこの場所でいま起こっていることだと感じられるお芝居です。そういう場所で観劇するのは、ここでしか得られない体験。帰り道においしいものを召し上がって、街をまるごと楽しんでもらえたら」と語り、インタビューを終えた。
キャストは高野ゆらこ、罍陽子、異儀田夏葉、天羽尚吾、古澤裕介、金子清文が名を連ねる。公演は11月30日(水)まで東京・遊空間がざびぃにて。チケット販売中。
取材・文:岡山朋代
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