
ドラマ「アンフェア」シリーズの脚本家として知られる秦建日子が作・演出を務める舞台「トムラウシ」が2月4日(土)に開幕を迎えた。
国による不当逮捕が横行する中、国民的俳優・大和仁も「セリフを指示通りに読まなかった」という理由で逮捕され、100年の強制労働の刑に処され、雪山の牢獄トムラウシに送られるが…。
主人公・大和を演じるのは石黒英雄。自身のポリシーに合わない仕事は受けず、納得できないセリフは言わないなど、強者に媚びない強い意志を持った男である。
冒頭から繰り返し発せられるのが、大和がある作品で発したセリフである「あきらめるな」という言葉。理不尽で絶望的な状況を前にしても、この言葉と共に大和も周囲の仲間たちも自らを奮い立たせる。
そもそも彼らは「誰」と戦っているのか? 物語が進むにつれ、明らかになってくるのが“白い巨人”と呼ばれる侵略者の存在だ。大和が同じく繰り返し口にする「白い巨人が…」というセリフは「ナチスが共産主義者を連れ去った時、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから」で始まる有名な詩「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」をアレンジしたもの。社会や政治、何より“他者”に無関心でいると、いずれ権力者の矛先が自分に向かった時に誰も助けてくれないという戒めを示しているが、まさに本作で大和らが置かれた状況そのもの。
当初、ディストピアな遠い未来を描いているように感じられる物語だが、“北の大地“から来た白い巨人の輪郭がハッキリしてくるにつれて、ここで展開している物語が単なる比喩や起こるかもしれない未来にとどまらぬ、ちょうど1年前、ヨーロッパで起こり、現在進行形で事態が悪化し続けている“現実”そのものであることに気づかされ、ゾッとさせられる。
主人公の名前を大和(ヤマト)とし、4人の囚人仲間たちの名にも“春夏秋冬”の一字をそれぞれ冠し、和太鼓を単なるBGMではない、物語上のキーアイテムにも用いるなど、“日本(の文化/美しさ/伝統)”を前面に押し出した演出となっているが、何より強調されるのが無関心とあきらめ(ニヒリズム)こそ最大の問題だということ。
白い巨人の国から来た監獄長・モッチを角田信朗が迫力たっぷりに演じる。同役は宮迫博之とのWキャストとなっており、前者がフィジカルを前面に押し出して演じたのに対し、宮迫はどういう路線で演じるのか、楽しみなところ。
「トムラウシ」は自由劇場にて2月12日(日)まで上演中。
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