
劇団「チェルフィッチュ」主宰の岡田利規の戯曲で2019年、ドイツの演劇祭テアタートレッフェンで“最も注目すべき10作品”に選ばれた「掃除機」が本谷有希子の演出によって日本で初めて上演される。引きこもりの高齢化――いわゆる「8050問題」(80代の親が50代の子の面倒を見ること)をテーマにした本作にて、一家(父と引きこもりの娘と無職の息子)を見守る“掃除機”を演じるのが栗原類。近年、精力的に舞台出演を重ねている彼に本作の魅力について話を聞いた。
栗原は2021年に岡田の作・演出による「未練の幽霊と怪物」に出演。同作を今回、演出を務める本谷が見に来た縁で、本作への出演が決まったという。
「僕自身、“8050問題”というのもこの戯曲で初めて触れました。生々しく、重い題材であり、戯曲で読んでいる段階では複雑さを感じていたんですが、最近、稽古に入って本谷さんの演出でつくっていく中で、淡々とした会話にちょっとブラックなファンタジー的な要素が見えて笑える部分があったりして、面白いです。8050問題は、もしかしたら自分の身にも起こりうることかもしれないと思いますし、この舞台をやりながら『家族って残酷だな』と感じています」。
栗原が演じるのは、80代の父、50代、40代の引きこもりの長女と無職の長男を見つめる掃除機のデメ。「決して無機質な存在ではなく、感情もあってシニカルな視点も持っているけど、この一家に愛着も感じている」とのこと。「観ていくうちに“掃除機”であることの意味がわかる芝居になっていると思います。本谷さんも俳優陣も、ドイツで初演された時の映像や資料は見ずに、日本初演でどんな表現ができるか? いろんな実験を繰り返しながら作っています」。
松尾スズキ、ノゾエ征爾、西田征史、白井晃、根本宗子などここ数年、日本の演劇界の第一線で活躍する演出家の下で精力的に舞台に出演している。「数週間にわたって演出を受けて、それが身体に刻み込まれていく感じが自分に合っていると思います。純粋にライブの緊張感の中で表現するのが楽しいです」と語る。そして、舞台に立つ上で大切にしている、こんな思いを明かしてくれた。
「市村正親さんが2016年に『ミス・サイゴン』を卒業される際に受けたインタビューで『その日、見に来たお客さんに『市村、いいな』と思ってもらえないと明日の仕事がない。毎日がオーディション』『最初から大きな役をやるんじゃなく、少しずつ上がっていくのが自分にはちょうどいいペースだった』ということをおっしゃっていて、すごく刺さりました。そのインタビュー記事は毎回、本番の5分前に読んでいます」。
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース「掃除機」はKAAT神奈川芸術劇場にて3月4日(土)より上演。チケットは発売中。
取材・文:黒豆 直樹
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