
写真:源賀津己
コンピューターを発明した男アラン・チューリングの半生を、彼と関わりのある人物たちの視点を通し描き出す舞台『ブレイキング・ザ・コード』。本作の出演者で、共に劇団四季出身の保坂知寿、加藤敬二に話を訊いた。
本作が日本で上演されるのは実に33年ぶり。そしてその初演の幕を開けたのが、ふたりが在籍していた当時の劇団四季だ。保坂は、「難しくて理解は出来なかったのですが、誰もこの人の頭の中をわかってあげられない、その悲しさはすごくよく伝わってきて。でも今脚本を読んでみると、決して特別な人の話ではないなと。年月を経たことで、彼が抱えていた問題がグッと身近なものになった気がして。今のほうがこの作品は伝わりやすいだろうと思います」と語る。
加藤が演じるのは、政府暗号学校(GCCS)で、チューリングと共にドイツの暗号「エニグマ」を解読することになったディルウィン・ノックス。「ノックスはチューリングよりずっと年上ですが、非常に破天荒で自分の世界観を持っている、変人であり天才のチューリングに対して憧れもあったんでしょうね。この天才の登場によって国が動いたわけですから。仲間というよりも、愛情すら抱いていたのかもしれない。
保坂はそんな天才チューリングの母サラを演じる。「彼女自身は普通のお母さんだし、子供にも普通を求めていたのだと思います。それなら理解もしてあげられるけれど、やっぱりわからない。でもなんとかそれを修正したい気持ちもあって…。こういう偉大な子を持ってしまった親は大変だったでしょうね」
劇構造としてはチューリングとサラ、チューリングとノックス、といったように基本的には一対一や一対二の会話劇のため、保坂と加藤が直接絡むシーンはない。しかし劇団時代の先輩後輩ということで、久々の共演に声を弾ませる。「敬二さんは振付や演出もされるので、常に客観的な目を持っている。だからブレないし自分に厳しい。そしてそれがちゃんと結果に出ているのが素晴らしいなと思います」と保坂が語ると、「演出家によく『役が生きて自分が消えろ』と言われましたが、まさに保坂さんは透明感があって、どんな役をやっても全部ストンとハマる。本当にすごい人です」と加藤。
信頼を寄せ合う実力派同士が、脇をしっかりと固める本作。33年ぶりの上演から、今を生きる観客がなにを受け取るのか。期待で胸が膨らむ。
取材・文:野上瑠美子
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