
(左)坂本里咲(右)末次美沙緒
2018年に逝去した劇団四季の創設者・浅利慶太が1958年の日本初演から500回以上にわたって上演を重ねてきたジャン・ジロドゥ作『オンディーヌ』が浅利の生誕90年を迎えた今年、浅利が育ててきた俳優・スタッフたちの手で上演される。
水の精オンディーヌと騎士ハンスのはかない恋を描く本作。オンディーヌの恋敵となるベルタを演じる坂本里咲とオンディーヌの養母ユージェニーを演じる末次美沙緒が本作の魅力、そして浅利慶太の思い出について語った。
2006年に劇団四季を退団し17年を経て、かつての仲間たちとこの作品に再び出演することに末次は「まさか声をかけていただけるとは」と喜びを口にする。ジロドゥは、末次にとって思い出深い作家だという。
「初舞台が19歳の頃、西武劇場(現・PARCO劇場)で上演したジロドゥの『テッサ』だったんですが、私が浅利先生にほめていただいたのはその時の一度きり。『若々しくて生き生きしていていいね』と。演技ではなく、その年齢の生身のままをほめられただけなんですけど(苦笑)。主演の影万里江さんを指して『人生を歩んで大人になって、あそこに到達するんだよ』と言われました」。
一方、坂本にとって『オンディーヌ』は人生を変えた1本。高校3年生の時、初めて日生劇場で目にし、その美しさに心を奪われ、劇団四季の研究生に応募した。念願かなって最初に『オンディーヌ』に出演した際は水の精のひとりを演じたが「稽古でひと言しゃべるたびに『違う!』と怒られ、どんどんセリフが削られて(苦笑)。初日を迎えても感慨に浸るというより、とにかく必死でした」とふり返る。
そんな坂本が忘れられないのは、稽古の帰りに電車で浅利と一緒になった際のエピソード。
「小さな子を連れたお母さんが本を読んであげていたんです。それを見た先生が私に『君は結婚して子どもがほしいのかい?』と聞いてきて、私が『そうですね。母がよく読み聞かせをしてくれたので、同じことを自分の子にもしたいです』と答えたら『君はね、ひとりの子だけでなく、日本中の子どもにお話を聞かせる女優になりなさい』と。その言葉はずっと胸の中にあります」。
そんな2人が『オンディーヌ』で何より大切にしたい魅力として口を揃えるのは「言葉」の力。末次は「とにかく絶対的に美しく、奥深い言葉がたくさん出てきます。それを聴いているだけでも心地よく感じられると思います」と頷く。
坂本は今回、再演版演出にして主演も務める野村玲子らと共に、浅利の遺した言葉を掘り起こしながら、それを後進の若者たちに伝えるという役割も担っている。
「作品の経験者である美沙さんや広瀬彰勇さん(水界の王役)の力も借りながら、日々稽古をしています。浅利慶太の演出って形があるものじゃなく精神、生き方。先生がこの戯曲の中に見出した“美しさ”をお客さまに届け続けていきたいです」。
取材・文:黒豆直樹
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