
撮影:源賀津己
アガサ・クリスティーのミステリの中でも、その繊細な人物描写で人気の『ホロー荘の殺人』。1946年に発表した同作を1951年にはクリスティー自ら戯曲化。世界中で映画やドラマとなり今も愛されている名作だ。今回は野坂実の演出と凰稀かなめの主演で、同じ宝塚歌劇団出身の紅ゆずるが共演するのが見どころ。稽古を目前に控えた3人に意気込みを聞いた。
舞台はアンカテル卿(中尾隆聖)と、妻のルーシー(旺なつき)が住むロンドン郊外の屋敷ホロー荘。ある秋の週末、親族であるヘンリエッタ(凰稀)やエドワード(林翔太)、ミッジ(高柳明音)、さらに夫妻の友人クリストゥ医師(河相我聞)と妻のガーダ(紅)が晩餐に集まる。映画スターのヴェロニカ(綾凰華)の来訪に驚く一同だが、その翌日、クリストゥ医師が何者かに殺されて……。
本作の魅力を「ミステリにつきもののトリッキーさより、現代劇のように登場人物の心情が描かれているところ」と語るのは、演出の野坂だ。
「以前から好きな作品だったのですが、友人の小田島恒志(翻訳家)に『翻訳したことがあるよ』と聞いて詳しく教えてもらっているうちに、強く舞台化を願うようになりました」と話す。
凰稀と紅については「物語がもつ重厚さを表現できる人にと思っていたところ、ご縁あって凰稀さんと紅さんにお声をかけることができて。これで全く新しい『ホロー荘』になるぞとワクワクしているところです」と期待を寄せる。
その凰稀と紅は、同じ星組に約2年、所属していたが、退団後ではこれが初共演。
凰稀は「一緒にいた期間は短いのですが、実はお休みの時もずっと芝居の話をしていた仲。そんな紅さんと大好きなストレートプレイで共演できるのが楽しみ」と語る。
紅も「私は当時、大きな役が付き始めた頃。凰稀さんに悩みを話すと『その気持ち分かるよ』と言ってくださったり、2人で遊びに行ったりと、何にでも一生懸命だったあの頃を思い出します」と振り返る。
そんな2人にとって、今回はまさに挑戦となる役どころ。さらに紅はストレートプレイ初出演だ。
凰稀は「台本を読むと、人間関係が複雑に入り混じったドラマというのが第一印象。私の演じるヘンリエッタも感情をどういうふうに出すかでお客様への伝わり方が違ってくると思うので、稽古場で慎重に探っていきたいですね」と意気込む。
紅も、「初めてのストレートプレイで、演じるガーダも今までやったことのないタイプの女性。『人を崇拝するほど愛する』ってどういうことだろうと、まずそこからなんですが(笑)。セリフひとつとってもパズルのピースのような作品なので、難しさを楽しみに変えて挑みたいです」と話した。
「戯曲が充分面白いので、演出としては余計なことをせず、お2人が一番輝く形で作っていければ」との野坂の言葉に、凰稀と紅が真剣な面持ちで耳を傾けるひとコマも。この座組みならではの美しく重厚な舞台を、今から楽しみに待ちたい。
取材・文/藤野さくら
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