
ショーン・ホームズ(演出)
チェーホフの『桜の園』が、PARCO劇場開場50周年記念シリーズとして登場する。演出を手がけるのは、ロンドン・グローブシアターのアソシエイト・ディレクターを務めるショーン・ホームズ。2020年の日本でのワールドプレミア公演『FORTUNE』で衝撃を与え、2022年の『セールスマンの死』でも、斬新な演出で名作戯曲を新鮮に見せ、高い評価を得た。今度は『桜の園』をどう見せるのか。注目の演出家が、120年前に書かれた戯曲から、普遍的なテーマを投げかける。
もともと『桜の園』は大好きな作品だったというショーン。その魅力はどこにあるのか。「まずはやはり、人間が描かれていることです。人間が抱える矛盾や一貫性のなさを、非常に深いところで示している。深い痛みと深い滑稽さが隣り合わせに存在していると思うんです」。チェーホフと聞くだけで近寄りがたいイメージがあるかもしれないが、喜劇的な要素もふんだんにあると強調する。「感動的なシーンがあるかと思えば、それを遮断するかのように様子のおかしい人が登場したりする(笑)。そしてまた悲しみがあってと、一瞬一瞬が驚くべき豊かさを持っているんです」。
舞台となっているのは、20世紀初頭の南ロシア。原田美枝子扮する女主人ラネーフスカヤが5年ぶりにパリから戻ってくると、“桜の園”が借金返済のために競売にかけられようとしている。一族は没落し、かつて農奴の息子だった男が実業家に。社会が変化し、皆、既存の価値観と決別して生きていかなければならないのだ。物語のそんな時代を、「まさしく我々も似た地点にいる」とショーンは言う。「例えば気候変動の問題ひとつ取っても、どうしていいかわからないけれども変化しなければならないことはわかっている。ですから、ここに出てくる登場人物たちがより近く感じられるようなものにしたいと思っています」。加えてショーンは語る。「そうした変化の時代に、今世界がどこに向かっているかということに気づくのが、チェーホフのような劇作家である場合が多いのが興味深いと思うんです。演劇は人々を挑発し活性化するエンターテインメント。変化する時代にとって非常に重要なものなんです」。演出には、「亡霊的なものが取り憑いているイメージ」を考えているという。人間というものが漂うように迫ってくるのかもしれない。人間がどう生きてきて、これからどう生きていくのか。今回も予想できないアプローチで、刺激を与えてくれる。
(取材・文:大内弓子)
▼『桜の園』
日程:2023年8月7日(月) ~ 29日(火)
会場:PARCO劇場(東京都)
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