
舞台「組曲 虐殺」が開幕<br />小林多喜二役の井上芳雄、多喜二の恋人瀧子役の石原さとみ (撮影:落合高仁)
今、あらためて注目を集めている『蟹工船』。その作者であるプロレタリア文学の旗手、小林多喜二の生涯を描いた井上ひさしの新作・音楽劇「組曲 虐殺」が3日、東京・天王洲 銀河劇場にて初日を迎えた。
主人公の多喜二役に挑むのは井上芳雄。多喜二の恋人瀧子には石原さとみ。そして、ふたりを見守る多喜二の姉チマに高畑淳子。その他、山本龍二、山崎一、神野美鈴が脇を固める。
検閲により表現の自由が抑圧されていた昭和5年当時、地主や資本家たちに搾取される農民、労働者の立場で社会や組織と人間の関係を描き、官憲の横暴・支配を告発し続けた多喜二。小樽で少年時代を過ごし、瀧子に恋をし、自由を叫びながらも29年しか生きられなかった彼の最後の2年9ヵ月を、身近な人々の姿とともに、ユーモアを交えつつ活き活きと井上ひさしは描き出していく。
舞台上には板の間があり、それを黒い幕が囲んでいる。会場の照明が暗転すると、ピアノの調べが聞こえてくる。多喜二の壮絶な人生を思わせるメロディに会場中は静まりかえる。と、一転、ライトが当たり、舞台には演者たちが。彼らの歌う「小林三ツ星堂パン店!」(『代用パン』の歌より)という元気で明るい歌声が緊迫した空気を破り、観客の心を溶かしていった。
本作の作曲と演奏を担当している小曽根真のピアノが重要な登場人物のひとりとなっている。井上芳雄の絞り出すような歌声に呼応する小曽根のピアノ。物語に寄り添うような調べが心に響く。また、高畑淳子らの語る小樽弁はとても温かみがあり、敵であるはずの刑事も含め、時折語られる個性豊かな登場人物たちのエピソードがとても親近感が持て微笑ましいだけに、彼らの生きた時代の恐ろしさが現実味を持って伝わってきた。
終演後、鳴りやまない観客たちのスタンディングオベーションに、井上ひさしもステージに上がり応えていた。どんな状況でも希望を失わない小林多喜二の強さと彼を支えた人々の優しさは、現代の私たちにも勇気をくれる。決して忘れてはいけない心の叫びが伝わる舞台だ。
公演は、10月25日(日)まで天王洲 銀河劇場にて。その後兵庫公演が10月28日(水)から30日(金)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて上演。チケットは、現在発売中。尚、@電子チケットぴあ(Web)では、東京公演のお得なドリンク付当日引換券も発売中。
取材・文:松原正美
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