
東京二期会オペラ劇場「サロメ」
注目のオペラ公演が6月5日(水)に初日を迎える。東京二期会オペラ劇場のリヒャルト・シュトラウス《サロメ》。直前の舞台稽古を見た。この《サロメ》は1995年にハンブルク州立歌劇場で制作された、鬼才ウィリー・デッカー演出によるプロダクションで、5月下旬からデッカー自身が来日して稽古をつけている。
幕が開くと、舞台の間口いっぱいに巨大な階段がそびえる。中央に空いた暗い裂け目が、ヨカナーンの囚われている古井戸だ。30数段はある大階段を、歌手たちは上下左右に激しく動き回り、ときにストップモーションのように静止する。ドラマの流れを演者の動きにタイトにリンクさせて表現するのは、デッカー得意の演出手法だ。
その階段や衣装はほぼ白とグレーで統一され、剣やヨカナーンの首が乗せられる銀の皿も含めモノトーンの世界。サロメはじめ登場人物の多くがスキンヘッドなのもインパクト大だ(ただし、サロメ以外はおおむね帽子や王冠などを被って隠している)。
この日の稽古は6月5日(水)&8日(土)の出演歌手たちによるもの。序曲なしで始まる冒頭、いきなり歌い出すナラボート(大槻孝志)の力強い声や、古井戸から聞こえるヨカナーン(大沼徹)の朗々とした響きに、すでに好調な舞台の予感が漂う。そしてその期待を裏切らない圧巻の存在感を示すのが、いま最も勢いのあるソプラノのひとりである主役サロメの森谷真里だ。彼女にとってこれが初役。広い音域で強靭な声が求められる難役を見事に演じきっていた。ヘロデの今尾滋とヘロディアスの池田香織も、知的なアプローチを聴かせる。
そして新常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレ率いる読売日本交響楽団が特筆もの。フランクフルト歌劇場の音楽総監督でもあるヴァイグレが、リヒャルト・シュトラウスの大編成で濃厚なオーケストレーションを、力強く、また官能的に響かせる。オペラ指揮者としての本領発揮といった風情で、音楽の色彩が舞台のモノトーンと対照をなして映える。
演出と指揮、歌手、オーケストラがぴったりと噛み合った充実の舞台。実にかっこいい、見ごたえ十分のリヒャルト・シュトラウスだった。東京二期会の《サロメ》は6月5日(水)、6日(木)、8日(土)、9日(日)。上野の東京文化会館で(初日のみ18時30分開演、ほかは14時開演)。
(オペラ《サロメ》あらすじ)
紀元30年頃のイェルサレムの宮殿。古井戸に幽閉されているヨカナーン(洗礼者ヨハネ)は救世主(つまりイエス)の到来を予言している。その声に魅了された王女サロメは彼を誘惑するが拒絶され、その欲望は徐々に狂気を帯びる。義父のヘロデ王を官能的な踊りで誘惑してヨカナーンの生首を手に入れたサロメは、それを愛撫し口づけをする。その姿を恐れたヘロデ王は兵士たちに娘の処刑を命じる。
取材・文:宮本明
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